ビジネスわかったランド (経理)

資金繰りと資金管理

「手形割引」はもはや過去のこと?

ネットバンキングと信用力の面で手形取引は減少しています。

●新興企業は手形の存在すら知らない
「約束手形を見たこともない」という若手の経営者がいます。また、小切手でも、「信用できないので受け取らない」という経営者もいます。
手形は、発行手数料や印紙税を負担しなければならないうえ、紛失に備えた管理コストもあり、現在では、手形での支払より銀行振込みによる支払が主流です。また、手形・小切手の発行に必要な当座預金口座の数も、ネットバンキングへのシフトにより減少しているようです。

●なぜ、手形が信用されないのか?
そもそも、約束手形では支払がかなり先となります。サイトは4か月のものが多いようですが、なかには5~6か月といったものや、10か月という非常に長いサイトのものもあります。
この支払までのサイトの長さが問題です。この間に、手形の振出先が倒産するなどのリスクも十分に考えられます。銀行としては、そのようなリスクを抱える約束手形を割り引くのは避けたい、というのが本音なのです。

●手形を割り引かなければ厳しい台所事情も問題?!
私が銀行員だったとき、ある会社の経営者から「手形を割り引いてほしい。その割引後の現金を振り込みたい。金額は60万円ほど」という相談を受けたことがあります。
こういった会社は、手元現金が非常に乏しい会社と判断されるほか、商品を販売しても手形でしか支払ってもらえないうえ、仕入のほうは現金で支払うしかない、という非常に立場の弱い会社とも判断されてしまうのです。これでは長期的に繁栄していく可能性は低いと考えるのが妥当です。残念ながら、融資の稟議をする以前の問題となり、結局、この相談はお断りしました。

●約束手形は「約束」を果たさない?!
平成9年~平成10年には銀行の「貸し渋り」が行なわれたため手形の不渡りが相次ぎ、手形そのものの信用力が失われたのも、手形での取引を減少させる一因ともなっています。
また、「貸し渋り」と同じ時期に「リストラ」という言葉も流行り、コストの見直しが図られました。このときに体力のある大手企業を中心に、手形での支払を中止し、銀行振込みへと移行していったのです。
こうした事態は、「銀行振込みに変更=財務体力の強い会社」といった印象を与えるようになり、逆に、「手形取引を続けている会社=体力のない会社」といったイメージを持たれることにもなったのです。


 

著者
石橋 知也(資金調達コンサルタント)
2009年4月末現在の法令等に基づいています。