部下が上司に、
「今日、○○の件がどうなるか決定しますね。部長も決定が気になって朝から居ても立ってもいらっしゃれないと思いますが、私もそうです」
などと言うことがあります。
すでにおわかりのことと思いますが、この部下はわざわざ使う必要のないところにまで敬語を持ち出しています。
つまり、「居ても立ってもいられない」という「成句」を「いらっしゃれない」と敬語の形に直したために、おかしなことになってしまったわけです。
成句や慣用句を敬語表現に直してしまうミスは、ついうっかり使うことも含めてかなり多いようです。
なかには、「初心忘れるべからず」を「初心お忘れになるべからず」と相手に言ってみたり、自分の失敗に対して「覆水盆に返らず」を「覆水お盆に返らず」などと言う人さえいるほどですが、気がつかないうちにこのような誤用を繰り返していると、日本語に対する常識を疑われかねません。
成句や慣用句は、たとえ乱暴な表現のようでもそのまま使うのがルールなのです。


白沢節子