ビジネスわかったランド (ビジネスマナー)

文章を「分かりやすく伝える」テクニック

短く言い切る
言いたい要素を凝縮して、短く言い切る。それだけで、相手の心に届くスピードは格段に速くなります。その分、受け手に刺さる言葉になる可能性も高くなり、記憶にも残ります。言いたい言葉を、「ひとつにまとめて、短くできないか」考えてみましょう。
次の例は、小料理屋の店頭の張り紙やのぼりなどによく書かれているコピーです。

普通:当店では冷えた生ビールをご用意して、みなさまをお待ちしています

改善:生ビール、キンキンに冷えています

パッと見て、五感を刺激するのはやはり“改善”でしょう。暑い夏の夕方、こんなのぼりを見たら、ついふらっとお店に入ってしまう方も多いのではないでしょうか。そうなる理由は何でしょうか?
それは、このフレーズに「シズル」があるからです。シズル(sizzle)とは、ステーキを焼くときの、あの「ジュージュー」という音のことです。そこから派生して、生理的に感覚的に五感に訴えてくるものすべてを、「シズル」と呼ぶようになりました。広告業界では「シズル感がある」というふうに、かなりの頻度で使われる用語です。
元々は、アメリカの経営アドバイザーとして活躍した、エルマー・ホイラーが、今から70年以上前に発売された本の中で使ったのが始まりだと言われています。彼はその著書の中で、「ステーキを売るな、シズルを売れ」と語っています。
多くの人は生の肉のよりも、肉が「ジュージュー」と焼けているシーンを見たほうが、食べたい気持ちが何倍にもふくらみます。ステーキの肉を売りたいなら、「ジュージューと焼けているときのビジュアル、音、匂いなどを連想させるようにする」と、売上は大きく伸びるのです。
つまり、「商品そのものを売るのではなく、受け手の感情を刺激するもので売りなさい」ということです。
これは、ステーキのような食品だけにいえることではありません。たとえば、保険であれば「安心」、高級車であれば「ステータス」なども、シズルです。
「生ビール、キンキンに冷えています」は、ビールが好きな人にとっては、とてもシズルのあるコピーでした。
シンプルだけど、いやシンプルであるがゆえに、「ビールを飲みたい!」という感情をストレートに刺激するからです。

言いたい要素を凝縮して「短く言い切る」手法について、もう1例見ておきましょう。

普通:言葉は習慣によって身につくものである

見本:言葉は習慣である

“見本”は、『文章力の基本』(阿部紘久著)の見出しから取りました。“普通”は、意味としては間違っていませんが、見出しとして用いるには冗長すぎます。「言葉は習慣である」と言い切ることによって、逆にその項目全体の意味を際立たせることに成功しています。

会社の経営理念などでも、短く言い切るほうが「理念」がはっきりと浮かび上がります。しかし、長すぎて、結局何が言いたいのかがよくわからない経営理念は少なくありません。

普通:我々は先進の技術と最高品質のサービスで、お客様同士の豊かなコミュニケーションを確立し、社会の文化に貢献していきます。

改善:コミュニケーションは愛

“改善”のように短く言い切ったほうが、心に残るフレーズになることがわかるでしょう。
「短く言い切る習慣をつける」ことは、あなたのキャッチコピー力を一気に高めます。とくに、あなたの意見を際立たせたいときに有効です。
会議などで発言するときも、短く言い切る習慣をつけましょう。ブログなどでアクセスを集めたい場合も、あいまいな書き方はやめて、短く言い切るタイトルをつけましょう。ツイッターで注目を集めたければ、できるだけ短い言葉で言い切るようにしましょう。そうすることで、刺さる言葉が生まれてくるのです。

川上 徹也(湘南ストーリーブランディング研究所代表)